新たな役員・執行役員就任者へのインタビューシリーズ。当シリーズでは新任者の経歴や就任の背景、そして今後の目的・意気込みについてインタビュー形式でお届けします。
今回インタビューするのは、新たに執行役員に就任した由井 利明です。
学生の頃から、経営に深い関心を抱いていました。きっかけは、当時アルバイトとして働いていた学習塾での経験です。優れた授業内容や学習支援で人気だったその学習塾は、あるとき新校舎を開校することになりました。新規開校エリアは、既存の校舎から離れた場所。大手予備校との生徒の取り合いを避けるために、そのエリアが選ばれたと聞きました。
晴れて開校した新校舎ですが、なかなか生徒が集まりません。こんなに良い塾なのにどうしてだろうと、不思議に思っていました。そんなときたまたま立ち寄った書店で、経営戦略の本に出会います。そこで紹介されていたのが、スターバックスのドミナント戦略。特定のエリアに集中的に店舗を構え、地域での知名度を活用・向上する戦略です。
この本を読んで、新校舎の生徒募集が苦戦している理由がわかりました。学習塾は、生徒や親どうしの口コミで広がるもの。既存の校舎から遠いエリアには、開校するべきではありませんでした。学区が違いすぎるために、良い口コミが伝わらず、信頼残高をうまく活用できていなかったのです。
「もう少し経営に関する知識があれば……」「良いものでも広まらないんだな……」と、悔しい気持ちになりましたね。この経験から経営に興味を持ち、大学院にも進学して経営を学びました。
「いつか自分で事業をやりたい」という気持ちが強かったので、経営に近い経験ができそうな企業を中心に就職活動に取り組みました。最初は経営コンサルタントを志望しており、外資系のコンサルティング会社に内定も決まっていたんです。しかし、学生ながらに、なんとなくですが、自分で事業をやることを考えると、コンサルタントの「第三者」的なスタンスが身についてしまうのは怖いな、という懸念が拭いきれませんでした。
そんな折に、かつてインターンでお世話になったリクルートの方が「選考を受けませんか」と声をかけてくださり、せっかくならと受けてみることにしたんです。
選考の途中で、役員の方と直接お会いする機会がありました。その際、予定の時間を大幅に超えて、いろいろなお話を聞かせてくださいました。そのとき、「この人は、人生で会った人の中で、戦闘力が高い」「こういう人がいる会社だから、様々なサービスが生まれているんだな」と、直感的に思ったんです。このときの印象が、リクルートを選んだ決め手ですね。
最初の半年間は、営業をやりました。そこでは、収益を得る難しさを身をもって体感しました。そのうち3ヶ月は名古屋で飛び込み営業を繰り返す日々。自社で発行している情報紙と自己紹介シートを持って、スーツのズボンも破れるほど毎日動き回りました。
その後、IT研修を経て、事業横断型のプロジェクトを推進するグループに配属されました。何億円、何十億円レベルの費用をかけて、プロジェクト支援をおこなう部署です。優秀な人がたくさん集まるチームでたいへん刺激的でしたが、やはりひとつの事業を自分で動かしてみたい。そんな想いが伝わったのか、飲食関連事業の部署に異動が決まり、ITを活用した飲食店の販促・業務支援サービスに取り組むことになりました。
リクルートでは、プロダクト組織のマネジメントと営業組織のマネジメントが別系統になっています。プロダクト側の事業責任者補佐だった私は、プロダクト視点で何ができるかを考え続けました。アクションモニタリングにもとづく営業チームとのすり合わせや、Webディレクターと議論しながらの施策検討、コスト・リソース管理など、事業を進めるためにあらゆることをやりました。
このとき取り組んでいたのは、全国数万店舗が登録する大規模なサービス。チームも営業だけで数百人いるような大きな組織で、世の中や業界に大きなインパクトが出せる環境でしたが、一方で、何か新しいことをやるにも少し時間がかかる環境でもありました。もっとコンパクトな組織で、スピード感のある新規事業をやってみたいという気持ちが強くなっていきました。
ちょうどその頃、旅行領域での新規事業に取り組むという話を頂き、異動することになりました。チームにアサインされたのは、新サービスのリリースから半年経って、思ったように結果が出ていないタイミング。なぜうまくいかないのか、どこに問題があるのか、そしてどうすればそれを解決できるのか。ビジネスモデルは飲食領域で取り組んでいたものに近いですが、領域が変わるとさまざまな要素が変わってきます。業界事情やユーザーニーズを深く探り、チームで協力しながら、手探りでPDCAを回し続けました。
ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃に、退職を検討しはじめました。会社では複数のプロダクトの責任者を経験させてもらい「新しいチャレンジをしてみたい」という気持ちが強くなっていました。また、優秀な人材と豊富なリソース、多くの知見が揃う環境を、「恵まれすぎている」とも感じていました。
そんな当時は、様々な業界やフェーズの起業家から相談される機会が多い時期でもありました。何人もの起業家の方々と話す中で、「今まで自分が経験してきたことは、ベンチャー企業の人にとって役立つことなんだ」と気付きました。
私は今まで、自分の手で事業をやりたいと思っていました。しかし、自分の知見をベンチャー企業で活かすことで世の中をより良くすることもできると、そのとき思い始めたんです。塾の先生をやっていたときのように、自分の知識と経験で間接的に世の中に貢献できるかもしれないと。そういう流れで、ベンチャー企業への転職活動を始めました。
不動産の中でも特に不動産投資は、社会に大きなインパクトを与えられる分野のひとつだと思ったためです。教育や医療とも悩みましたが、自分の経験を活かしながらスピーディーに結果を出せる分野は何かと考えた結果、不動産を選びました。
実はリクルート時代最後の仕事として、保険関連の事業開発をしていました。そのとき、「もはや、なんとなく保険に入る時代じゃなくなっている」と気付きました。しかし「老後2,000万円問題」が叫ばれる現代、将来への備えはしないといけない。保険とは違う備え方として不動産投資を広めることは、日本社会を良くする手段のひとつだと考えました。
GAテクノロジーズには「業界を変える」という強い意志を感じ、一気通貫のビジネスモデルに構造的な優位性も感じました。また、テクノロジーを用いた顧客体験の改善は、自分の経験が活きる領域でもあります。このような理由から参画の意義を感じ、入社を決めました。
不動産投資をやった方がいい人が、きちんと不動産投資という手段に出会い、スムーズに意思決定できるような世の中になるといいですね。不動産業界は情報の非対称性が高く、意思決定が難しい領域でもあります。また、そもそも不動産投資に出会えていない人も多いですよね。これをITの力で改善したい。友人、知人から話を聞くだけでなく、お客様が自らインターネットを通じて情報収集・意思決定できるようになった現代、デジタル技術で不動産投資の体験をより良くできるはずです。
私が特に重視しているのが、「いかに早くプロダクトの質を高められるか」です。なぜなら、早くサービスができあがるほど、たくさんの人の役に立てるからです。
教育界で画期的なサービスが登場すると、「この生徒が1年生の頃にこれがあったら、3年間でもっと成績が伸びたかもしれない」と思うことがあります。勉強の成績は学習量だけでなく、学習環境(授業やサポート体制)も重要です。早くから学習環境を整えられるかどうかで、数年後の結果が変わるんです。
不動産投資も同じで、「あのとき知っておけば」という状況が生まれやすい。投資のリターンが必要になるタイミングと、投資を始めるべきタイミングが大きく違い、機会損失が生じやすいんですね。定年間近になって退職金や年金だけでは老後資金が足りないと感じ、20〜30年前に資産形成や老後の準備をしていたらよかったと悔やむケースもあるかもしれません。
「情報と出会わなかったから報われなかった」「環境が整っていなかったから、報われなかった」という人を、私はなるべく減らしたい。がんばる人が報われる社会をつくっていきたいんです。塾講師時代は自分のクラスの数十人しか支援できなかったけれど、今はITやサービスの力でもっと多くの人の役に立てると信じています。
そのために私たちがやらなければいけないことは、無限ともいえるほど多く存在します。したがって重要なのは、優先順位付けだと思っています。お客様が適切な情報に出会い、円滑に意思決定するためには、どんなプロセスやプロダクト、顧客体験が必要で、どんなポイントを改善すべきなのか。今やるべきことをしっかり見極めながら、組織としてのチャレンジを続けていきたいと考えています。
ライター:瀬良万葉
撮影:今井淳史
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。