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GAテクノロジーズは本日(2019年11月18日)開催の取締役会において、2名の新任執行役員の就任およびCxO制度の導入を決定しました。
今回のGA MAG.では、新たに執行役員および最高AI責任者(以下、CAIO ※1)に就任した稲本浩久にインタビューを実施。CAIOとして全社のAI・データサイエンス活用に関する戦略立案・新規事業企画などを推進していく立場となった稲本のこれまでのキャリアと今後の展望をお届けします。
インタビュアー:川村佳央
編集・構成:増田剛士
※1 Chief AI Officerの略称
稲本:画像処理を学び始めたのは大学院に在籍していた時ですね。
当時所属していた研究室ではレーザー顕微鏡を開発する研究をしていました。小学校や中学校の理科室にあるような顕微鏡ではなく「特殊な発光現象を観測するための顕微鏡」のような研究者・技術者向けの顕微鏡です。
顕微鏡で観察する試料の大きさ測ったり数を数えるのが面倒だったので、自動化できないかと、画像処理の勉強を始めました。
稲本:学部生の時は機械工学を専攻していました。なぜ機械工学科を選んだかというところからお話しすると、そもそもロボットを作りたかったからなんです。
ロボットを作りたいと思ったきっかけは、小学生の頃から親に買ってもらっていた雑誌『Newton(ニュートン)』。Newtonは科学の雑誌で、発刊される月ごとに特集されているトピックがあり、高校時代のある日特集されていたのがロボットだったんです。
その特集を読んで「ロボットって面白いな」と思ったのが、機械工学科への入学を決めた原体験でした。
稲本:興味の対象が変わったというよりは、「機械工学科で学べることが私の想像していたものではなかった。」という方が正しいですね。
「ロボットといったら機械」という安直な考えから機械工学科に入学したのですが、入学後はひたすら物理学を学ぶだけの日々。そんな学生生活を送る中で、「ロボットを作るってそういうことだっけ?」と違和感を抱くようになりました。
後々気がついたのは、私がやりたかったのは知能だということ。ロボットのハード面ではなく、ソフト面を作りたかったんですね。
ただ、学部で学ぶことができるのはハード面の知識。自分が想像していた技術や知識を学ぶことができないと気づいた後は学部の勉強に対する意欲も失ってしまい、ほとんど勉強はしませんでした。
稲本:学びたいことを学べないのであれば、少なくとも今とは違う分野の技術・知識を学びたいと思ったからです。その時に面白そうだなと思ったのが、顕微鏡について研究している研究室でした。
先ほどお話しした通り画像処理について学び始めたのも、この時からです。
最初は研究に必要だからと仕方なく勉強していたのですが、その内研究よりも画像処理の方が楽しいと感じるように。最終的には最低限求められる研究成果は出しつつも、画像処理の勉強に専念すると言う本末転倒な事態に陥ってましたね(笑)
稲本:入社後は研究開発部門に配属されコピー機の画質を綺麗にする画像処理技術について研究開発をしていました。しかし、当時は既にコピー機の画質は十分綺麗で、新しい技術は必要なくなりつつあるフェーズでした。
そういった飽和した技術分野だったこともあり、この研究が面白く感じられず、いい加減な仕事ばかりしてました。そもそも、当時の私は仕事に対して「60点の成果を出しておけば合格だろう」という姿勢で臨んでいました。今から考えるととんでもないことですが、60点で単位をもらえる学生気分が抜けてなかったんでしょうね。徐々に信用を失い仕事を与えてもらえなくなって、半年ほど社内失業に陥りました。
その時期はつらかったですが、空いている時間、ひたすら一番興味のある画像認識や機械学習関連の論文を読み漁っていました。だんだんと知識がついてきたある日、部署の先輩に画像認識の知識を披露したら「スキャナで撮った画像を自動で分類したら便利じゃない?一緒に研究しようよ」と誘ってくれて、ようやく社内失業を脱出することができました。結局、その研究を製品につなげることはできなかったのですが、偶然私の研究を知った他部署の画像認識技術者(当時リコー内における画像認識の第一人者)から「社外からこんな認識機能が欲しいと言われているんだけど、君の技術を応用して解決してくれないか?」とお誘いを頂いたりもしましたね。
そんな偶然の積み重ねの中で様々な仕事を任せてもらえるようになり、技術者として成長することができました。
稲本:そうですね。大学院生の時に研究室で顕微鏡をテーマにしていなかったら。そして、社内失業に陥った時に画像認識や機械学習の論文を読んでいなかったら、私は全く別のキャリアを歩んでいたかもしれません。
過去に積み上げてきたものは無駄にはならないし、努力していれば必ず見てくれている人がいるんだなと実感した瞬間でした。
稲本:不動産業界が抱えている課題に対して、画像処理技術者として貢献できることが多いと感じたからです。
GAに転職する前に携わっていたプロジェクトが「theta360.biz」と言う不動産向けのVRサービスだったことや、不動産業界が印刷機・コピー機の利用率が高い業界ということもあり、リコーにいた時から不動産業界に関わる機会は意外と多かったんですね。
その時から不動産業界のアナログさやテクノロジー活用の遅れは実感していましたし、そこに対して私のような技術者が貢献できることが多くあると確信していました。
そんなことを考えていたら、ヘッドハンターからGAへのオファーを頂き、運命だと思って転職を決めました。
稲本:その通りです。GAに入社してからについてお話しすると、入社してすぐにプロトタイピングを始めたのが昨年特許を出願したマイソク(図面入り不動産広告)の自動読み取り技術です。
入社してから一週間でプロトタイプを開発。すぐに代表の樋口の承認を得ることができたので本格的に開発に取り掛かり、入社した次の月にはSUPPLIER by RENOSYという社内の業務支援システムに導入されました。
稲本:はい。入社して2年が過ぎましたが、前職時代からは想像もできないようなスピードで研究開発を進めることができています。直近でいうとDATA ANALYZER by RENOSYやBLUEPRINT by RENOSYのようなシステムがリリースされ、実際に運用されています。
このようなスピード感で研究開発を進めることができているのは、それだけ素晴らしい人材が揃っているということは勿論のこと、社内の意思決定の速さや柔軟さも大きく影響していると思います。
ここまでお話しした内容だと全てが順調に進んでいるように感じるかもしれませんが、まだまだ課題も多く残っています。
その一つがAI Strategy Center(以下、AISC)で研究開発している内容が比較的目先のものに集中してしまっていることです。これまでは、意識的に、早く事業に貢献するためにそうしてきましたが、研究部門の本懐は、他社に対する参入障壁となるような強い技術を作ることだと考えています。しかし、そういった強い技術は中長期的に腰を落ちつけて研究しないと生まれてきません。
目の前の開発に集中することも勿論大切ですが、組織全体を見る立場になったからには、これまで以上に先々を見据えて、中長期の研究開発も進めていけるように組織・体制作りを進めていきたいですね。
稲本:これまでのAISCがやってきたことは、社内の業務改善システムを開発したり、営業プロセスを変えたりといった感じで、社内向けの仕事が大半を占めているんですね。もちろん社内の業務を改善することによって、間接的にお客様の体験向上に貢献していることも事実です。
ただ、今後は社内だけでなく、業界全体に目を向けていくフェーズ。
これまで社内で開発・運用してきたシステムをプロダクトとして世に送り出し、業界全体を変えていきたいと思っています。
不動産って衣食住の住の部分を担う、人の幸せに密接に結びついているもの。それなのに、不動産購入や賃貸の体験に不便さを感じる人、その過程を通して不幸になる人はまだまだ多いです。実際、私自身も不動産を借りたり購入する時にロクでもない体験をしてきました。その体験がきっかけで不動産業者に対して疑心暗鬼になり、本当に親身に接してくださった不動産屋さんの話をまともに聞くことができなかったこともあります。
こういった体験は不動産に関わる全ての人にとってマイナスにしかなり得ないですよね。
その現状を変えるためには、GAだけが変わっても意味がなく、業界全体の常識・構造を変えていくことが必須だと考えています。だからこそ、今後は社内外双方に等しく目を向けて研究開発を推進していく所存です。
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