AI Strategy Center(AISC)の河本悠です。
先日のGA MAG.では、第34回人工知能学会全国大会のレポートをお届けしました。今回は6月10日~12日の間に開催された画像センシングシンポジウム2020(SSII2020)への参加レポートをお送りします。
SSIIは毎年パシフィコ横浜で開催される日本最大級の画像処理に関連する学会です。
画像処理に関連した機器の展示会と同時開催されるなど、大学だけでなく企業の参加を重視しているという特徴があります。
新型コロナの影響で様々なイベントが延期または中止になる中、本会議はオンラインで開催されました。残念ながら同時開催の展示会は中止となりましたが、それでも例年と変わらずに多くの大学と企業が参加され、学生のアイデア性と企業の現実性が飛び交う発表と議論が行われ、私自身とても刺激になりました。
本会議の特別公演では、理化学研究所・東京大学の杉山先生と、サイモンフレーザー大学の古川先生という著名なお二方が登壇されました。
杉山先生は、日本におけるAI研究の第一人者と言われており、AI研究者なら必ず読む教科書を何冊も書かれている有名な先生です。さらに古川先生は画像処理の分野で世界的な研究者として知られており、不動産に関する論文も多く執筆されています。
実はこのお二方はGAテクノロジーズにとってはとてもなじみ深い方たちです。杉山先生はGAテクノロジーズの技術顧問をされており、古川先生はAISCと共同研究をしています。ちなみに今回のSSIIでは、GAテクノロジーズはプラチナスポンサーとなり、私と杉山先生で共同で発表しました。
私はSemi supervised Learning による Region Proposal Network のアノテーション抜けへの対応というタイトルで発表しました。
この研究はAIを使って画像から何かを見つける技術に関するもので、杉山将先生と共同で研究を進めていた内容です。
画像の中から猫を見つけるAIを例にしてこの研究の紹介をします。AIが猫を見つけるためには、あらかじめ人間が画像の中でどこに猫がいるかを教える必要があります。この作業のことをアノテーションと呼びます。
アノテーションがあることで、AIはその領域を「猫」として学習します。一方で、アノテーションを付け忘れた領域にいる猫は「猫じゃない」と学習されてしまいます。その結果、AIは猫を正しく見つけられずに精度が下がってしまいます。私たちは杉山先生とこの問題を解決する手法を研究しています。正しくアノテーションがついていない部分でも「猫かもしれない」と捉えることで正しく猫をみつけることができ、精度が下がることを防ぐことができます。
私たちは現在、BLUEPRINT by RENOSYという間取り図からCADデータを自動生成をするプロダクトの研究開発をしています。そこでは品質向上のために間取り図の解析が必要です。間取り図の中にはドア、窓、家具、コンセントといった大小様々なアイコンが多数記入されています。このアイコンたちをAIに学習させるためには、何百枚・何千枚もの間取り図に対してアイコンのアノテーションをしなければなりません。全ての間取り図に対して全てのアイコンのアノテーションが完了したかを人間がチェックすると負担がとても大きくなってしまいます。そこに、私たちの研究を応用すると、間取り図毎に正しいアノテーションがされているかのチェックをする必要がなくなります。一般的にAIはデータの量が多ければ多いほど精度が上がります。チェック時間が減った分、より多くのデータを用意できるようになり、精度も高められるようになります。
画像処理で取り出した情報はCG(コンピュータグラフィックス)として提示されることが多く、SSIIではCGの研究も多く発表されています。私たちはAR(※1)やVR(※2)を見据えた様々な形での不動産情報の提示の仕方についての研究開発も視野に入れているので、大変興味深く発表を聴講しました。そこで本会議で私が気になったCGに関する研究をいくつか紹介します。
(※1)AR:拡張現実、撮影した実際の風景の中にCGを表示する技術
(※2)VR:仮想現実、あたかも現実かのようなCGを表示する技術
1D-CNNによる全方位LiDARデータのセマンティックセグメンテーションLiDARはカメラから物体までの距離を測ることができるセンサーです。この研究では自動運転のために屋外で用いることが想定されていましたが、屋内の部屋に応用できればCGを簡単に生成できるだけでなく、リノベーションにおける部屋の採寸をより効率的に行えるようになるなど期待できる研究でした。
Slope Disparity Gating を用いた プロジェクション映像とのタッチセンシングの実現
壁にスイッチを投影するというARについての研究です。アニメで見たような世界がだんだんと近づいてきていると思えるようなわくわくする研究でした。
学会全体の傾向としては、近年発展してきたAIの技術を過去に議論された課題にどのように適応させて現実的に解決するかといった内容が多いように感じました。
杉山先生の特別講演ではAIを簡単に利用できる方法についての紹介がされました。また、関連する技術が別のセッションでも議論されていたなど、今後は私たちが発表したようなAIをいかに簡単に利用できるようにするかといった研究に注目が集まると思っています。
AISCでは研究を進めながら様々な研究に触れて最新の技術・研究の動向をいち早く取り入れて最先端の研究をする部署を目指しています。
今回は画像処理の研究発表についての紹介を行いましたが、AISCでは他の分野でも最先端の研究をしているので、別のメンバーの報告や研究紹介の記事が投稿された際にはぜひ読んでください。