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Open Street Mapを活用した交通機関に関する騒音リスクマップの開発

日本行動計量学会 第48回大会
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エンジニア 不動産×AI

Oct

7

Wed

WORDS BY石田 康博
POSTED2020/10/07
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AI Strategy Center (以下 AISCとして略) の石田です。

今回私は、研究活動の一環として日本行動計量学会(第48回大会)に参加する予定でした。しかし、不運にもコロナの影響により開催が中止になってしまいました。そこで、当記事では学会にて発表を予定していた研究内容を皆さんに紹介させていただきます。

AISCとは?

はじめてAISCを知った方もいらっしゃると思いますので、簡単に部署の紹介をさせていただきます。

AISCは2017年4月に設立された部署であり、不動産流通サービスを発展させるためにAI技術やビッグデータ解析といった先進技術を活用することで事業貢献を目指している部署になります。

もともと大企業や研究所で研究されていた方や大学で教鞭を執られていた方など、多様なバッググラウンドを持ったメンバーで構成されています。

研究の概要

さて、話は代わりまして今回私が発表する予定だった研究の内容を簡単に紹介させていただければと思います。

今回の題目は「Open Street Mapを活用した交通機関に関する騒音リスクマップの開発」でした。不動産業界で懸念対象として取り上げられる交通騒音のリスクを定量的に表現しようと試みた内容になります。

研究の背景

騒音は一般的に不快で好ましくない音とされ、自動車や電車・飛行機等から発生します。不動産業界の場合では、それらの騒音は生活環境に影響を与えるため、家賃の価格を下げている要因として知られています。

この記事を読んでくださっている方の中にも、住んでいる家の前に大きな道路があって、夜中なかなか寝付けないといった経験をされた方がいるのではないでしょうか?そのような影響があるにも関わらず、騒音は活用可能なデータや公開されているデータが少なく、網羅的に存在していません。

そのため、価格査定の変数に騒音を考慮することが困難でした。その課題に対して、今回の報告内容では騒音要因から発生する音の増幅や減衰をシミュレーションすることで網羅性を補った騒音リスクマップを開発しました。

研究手法

今回の研究手法では、まずはじめに騒音源として考えられる要因(e.g. 道路や軌道・踏切)をあらかじめ設定し、それぞれの要因ごとに先行研究や騒音の目安等を考慮したdB値を付与します。その後、音と音の重なる部分の足し合わせを行い、その音が距離によって減衰していくことを一般的に使われている減衰式を用いて表現しました。

その方法で開発したマップが下の図であり、Bが音同士の重なりを考慮した騒音源のマップ、Cが音の減衰を考慮したマップになります。Bでは鉄橋の部分が一番赤く、ついで線路がオレンジ色になり、さらに信号機を含む交差点が黄色く、最後に道路が緑色という形でそれぞれ騒音源が異なり、dB値が異なることが見て取れます。また、白い部分は今回対象にした騒音源以外であり、騒音となりうる音源が存在しないことを意味しています。Cでは道路や線路から離れたところが黄色から緑になっていき静かになっていくことが見て取れます。

今後取り組んでいくこと

今回開発した騒音リスクマップは交通量や建物などの遮蔽物による減衰が考慮されていないので、必ずしも精度が高いとは言えません。しかし、現時点でも騒音が発生しうるリスクを定量的に算出することができます。今後は遮蔽物の考慮や別の騒音要因の特定、騒音と建物の採光面との関係など今まで行われていなかった研究に挑戦していこうと考えています。

また、この騒音リスクマップがより精度の高いものになった際は、今住んでいる地域や今後住もうとしている地域が「少し騒がしい」「静かな可能性がある」といったことがイメージできるようになり、物件選択により幅を待たせることが期待されます。

最後に

私は2019年4月に新卒でGAテクノロジーズに入社し、AISCで研究開発に携わってきました。最後に、この1年半で感じた事業会社で研究者として働くことのやりがいを共有させていただきます。


答えのないことへアプローチし続けること

今回の騒音に関する研究は、例えば価格査定のように説明されるべき変数(i.e. 物件価格)が明確に存在するわけではありませんでした。また網羅的にデータが存在しなかったため、データの取得が困難でした。そのため、何が正解なのかやどういうアプローチが適切なのか・どのようなデータを活用するのかというのを自分で判断し、選択していかなければなりませんでした。この状況は研究している人であれば誰もが通る道であり難しい部分でもありますが、それ以上に未知への挑戦をする意味でやりがいを感じると思います。


現場から生まれる研究のタネ

事業会社の大きなメリットは、現場との距離が近いことだと考えています。これは例えば、現場とのヒアリングを行うことで得られた知見を研究に反映させたり、現場からあげられた課題や要望を聞いて研究の糸口を見つけたりすることができます。また、得られたアウトプットをすぐに評価してフィードバッグをもらえることも重要な機会です。そういった機会がたくさんあることが事業会社として研究することのやりがいになります。


企画から研究、そして開発まで

大学や大学院までであれば研究だけをする環境だったかもしれません。しかし、事業会社では研究だけできれば良いという環境ではなく、事業に貢献するような研究テーマを考え、その結果を形に落としこむことが必要になります。そういう意味では、「こういうサービスがこの会社には必要なんだ」という企画から、実際のサービスを実現するための研究フェーズに移行し、その結果をアプリケーションとして見える形で提供・開発するという流れは、おそらく事業会社でしかできないことだと思います。この一連の流れを全て習得するのには時間がかかりますし、私自身まだまだですがとても楽しいと感じています。


今回は行動計量学会で発表予定だった研究内容や事業会社で研究することのやりがいを共有させていただきました。AISCでは引き続きこういった情報を共有していくつもりですので、また更新があった際は是非お立ち寄りください。ここまで読んでいただいて、ありがとうございました!!

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

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EDITOR’S PROFILE
  • AISC
石田 康博
GA technologiesに新卒で入社。大学院の専攻は消費者行動の購買意思決定プロセスで、機能的価値と象徴的価値に着目した使用状況が与える影響について研究。入社以降、交通機関を対象にした騒音に関するシミュレーション研究を行い、その後サーバサイドだけではなくフロントサイドも含めた営業支援ツールのプロトタイプ開発に従事。
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